“エステティックJIS”って何が変わるの?
〜繰り返される倒産問題と、これからのサロン経営に必要な視点〜
「エステティックJISって、結局何なの?」
「取得したらサロンにどんなメリットがあるの?」
そんな疑問を抱えているサロン経営者の方、きっと多いのではないかなと思います。
今、エステティック業界では、”社会的信用の再構築”がとても大きなテーマになっています。その鍵となるのが、現在策定が進められている「エステティックJIS」規格です。
私自身もこの開発メンバーの一員として議論に参加していたのですが、2026年度中には、経済産業省から公式に発表される予定となっています。
この「エステティックJIS」という制度ができたからといって、ただ”体裁を整える”だけでは、非常にもったいないんですね。
そしてそれを他人事のように、ただ”傍観しているだけ”では、なおさらもったいない。
本来このような標準化といわれる基準は、業務効率を高めるために用いられるものです。
ですから、これからの時代に選ばれるサロンになるために、お客様やスタッフへの「信頼の見える化」や「業務効率を高めて利益の創出」につなげる、”制度を使いこなす視点”を、ぜひ持っていただければと思っています。
Contents
なぜ今、JIS(Japanese Industrial Standards)が必要なのか?
■ 社会的背景とエステティック業界の課題

経済産業省では、JIS策定の背景として、こうした社会的背景やエステティック業界の課題を挙げています。
- サービス産業の品質のばらつきと、トラブル・クレーム対応の難しさ
- 業種間・業態間競争の激化と価格競争の限界
- 消費者の安全性・透明性への意識の高まり
- サービス提供者によるリスクマネジメントや自己点検の必要性
特に、法的規制がまだ十分に整っていないエステティック業界では、運営上のいわゆる”グレーゾーン”といわれるルールが周知徹底されていません。
例えば、「医療と誤認される施術広告」「誇大表示」「前受金トラブル」といった問題が、何度も繰り返されています。
実際に最近では、大手脱毛サロンの大型倒産のニュースが大きく取り上げられていましたよね。
ところがこれは、大手脱毛サロンだけの話ではないのです。大きなニュースにはなりませんが、実は、老舗のエステティックサロンや個人経営の小さなエステティックサロンの倒産や廃業もとても多く起きているのです。
エステティックサロンの多くは、コース契約の際に代金を先払いでお預かりするという形を取っています。そのため、サロンの経営が立ち行かなくなったとき、お客様は受けられるはずだったコースの提供を受けられなかったり、解約を申し出てもお金が戻ってこなかったり、という形で、実質的な被害者になってしまいます。
これは決して今に始まったことではなく、何十年も前から、エステティック業界がずっと向き合い続けてきた、根の深い課題でもあります。
制度の策定は、そうした状況に対する”答え”そのものではありません。
むしろ、エステティックを社会にとって必要な産業として位置づけるための、”土台”づくりなんですね。
すでにある制度が、十分に活用されない理由
実は、こうした問題に対処するための仕組みは、20年以上も前からすでに存在しています。
経済産業省とエステティック業界が協力して策定し、2007年から始まった「エステティックサロン認証制度」は、健全な運営をしているサロンに認証を付与するというものです。
いわゆるミシュランの星のようなもので、お客様に優良店の「見える化」を推進するための制度になっています。
私自身、このサロン認証アドバイザーを長く務めておりますが、残念ながら、特に個人・小規模サロンではハードルが高いと感じられることが多く、なかなか認証取得サロンが増えていないのが現状です。
加えて、業界団体に加入しているエステティックサロンは、全体の1割にも満たないと言われています。団体に入っていないサロンには、正しい一次情報が届きにくく、結果として取引先メーカーの営業担当者の情報だけに偏ってしまう傾向があります。
メーカーの営業担当者は、商品を販売することがお仕事ですから、当然、新しい商材をご提案されますよね。それ自体は、とても自然なことです。ただ、その分、サロンの経営者自身が経営や運営についてしっかり学んで取捨選択の判断ができるようになっていないと、メニューを増やすことばかりに目が向いてしまう──これが、小規模サロンの現場で、日常的に起きている実態です。
一方の厚生労働省では、「エステティシャンの職業能力評価基準」がすでに策定されています。技術面はもちろん、知識、カウンセリング能力、法律への理解、顧客管理、マネジメントスキルまで、本当に細やかに整備された評価基準です。
ところが、これを実際に活用できているのは、残念ながら大手企業の一部にとどまっていると言わざるを得ません。
「エステティックサロン認証制度」「厚生労働省の職業能力評価基準」
そして今回の「エステティックJIS」。
すでにある仕組みと、これから生まれる仕組みが重なり合うことで、業界全体の信頼性を底上げしていく。そんな構想が、今まさに進んでいるところです。
“エステティックサロン認証制度”と”エステティックJIS”の違い

ここで少し混同されやすいのが、「エステティックサロン認証制度」と「エステティックJIS」の違いです。
エステティックサロン認証制度は”サロン単体の信頼マーク”、エステティックJISは”産業としての信用の土台”という、それぞれ役割の違うものなんですね。
技術力だけでは生き残れない時代に
昨年は、美容室や脱毛サロンの倒産件数が過去最多を記録しました。どれだけ技術力があっても、経営やコンプライアンス、信頼性が伴っていなければ、お客様の継続来店につなげられず、結果としてサロンを続けていくことが難しくなってしまいます。
加えて、
- 医療美容の進化や低価格化
- パーソナルトレーニングの台頭
- セルフケア機器やAI美容サービスの進化
といった、同じ悩みを解消する競合サービスも増えてきていますので、業界を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。

だからこそ、”人が人に触れる価値”や、”会話を通した信頼構築”といった、エステティックサロンならではの本質的な魅力が、改めて見直されているのです。
エステティックサロンが担う、”メンタルヘルスケア”の役割
現代は、ストレスや不安を抱える方が、本当に増えている時代です。
厚生労働省のデータによれば、企業のメンタルヘルス対策では「外部専門家」との連携がカギとされていて、エステティックサロンのような”対話”と”傾聴”の場が、今、注目されています。
- 傾聴的なカウンセリングや接客で、お客様自身の自己浄化(カタルシス)や気づきの機会を提供できる
- 心地良い皮膚からのアプローチで、オキシトシン(幸せホルモン)の分泌が促され、ストレスの軽減につながる
- 衛生環境の整ったリラックスできる、心理的にも肉体的にも安全・安心な空間で、コックピットのような役割を担う
このように、本来のエステティシャンは、カウンセリングの手法である”来談者中心療法の要素を含んだ接客サービス”や”心地良いエステティックケア”を施すことで、社会生活の中で疲弊したお客様の心身を整え、エネルギーをチャージして、また元気に社会で活躍してもらえるようにサポートができる職業です。
このようなエステティックサロンの運営管理を明文化して、お客様がより安全にサロンを選べるための指標を見える形にしていくためにも、”エステティックJIS”規格に沿った体制づくりが求められています。
小規模サロンだからこそできる
“信頼の見える化”
「うちは個人サロンだから関係ない」──そう思っていませんか?
ところが…実際には、小さなサロンだからこそ、エステティックJISの基準を柔軟に取り入れやすい、という面もあるんです。
例えば…
- お客様との同意形成(インフォームド・コンセント)
- 接客プロセスの見える化
- 万が一のトラブル対応マニュアルの整備
- 顧客情報の適切な管理と活用
こうしたことは、方法さえわかれば、大規模チェーンよりも小規模サロンの方がスピーディかつ柔軟に取り入れていけることなのです。
エステティックJISの体制を整えていくことで、無駄が省かれサロン業務がより効率的になっていきます。
また、エステティックJISマークを掲げることで、地域での”信頼の証”となって「このサロンを選びたい」と思ってもらえる理由になっていきます。
大切なのは、「取得するかどうか」ではなく
「いつ体制を整えてサロンで活用するか」

ここまでお話ししてきたように、エステティックJISは、特別な誰かのためだけの制度ではありません。むしろ、これからも長く愛されるサロンであり続けるための、心強い味方になってくれる制度です。
だからこそ、私は皆さんに、こうお伝えしたいのです。
「取得するかどうか、迷っている」のではなくて、「いつ体制を整えてサロンで活用するか」を、もう一歩進めて考えてみませんか?
エステティック業界全体がこれから大きく動いていく中で、早く取り入れたサロンほど、お客様からの信頼を積み重ねる時間も長く持てることになります。
迷っている時間も、もちろん大切です。
でも、その先に、「いつ」という具体的な一歩が描けたら、その決断があなたのサロンを次のステージへ運んでくれることでしょう。
制度に”振り回されない”ために、
制度を”活かす”視点を

エステティックJISは「守るべき義務」ではありません。
むしろ、「経営改善や信頼構築のヒント集」として、サロンの在り方を見直すための、心強い材料として活用できる制度です。
制度に”振り回される”のではなく、制度を”使いこなす”ことで、自分のサロンの価値を、もっと豊かに高めていく。
そんな視点こそが、これからのエステティックサロン経営に求められています。
小規模サロンだからこそできる、”サロンの信頼の見える化”。
皆さんも、ぜひ一緒に取り組んでいきましょう。